Dr理恵のお話 No.3  2007年10月 『うちの子が癌になりました。』
 

 私の命より大切なメルモ(ヨークシャテリア・7歳)が癌になりました。(2007年8月)組織検査の検査結果を見た瞬間、私の頭は真っ白になりました。「鼻腔腺癌」。メルモの病名です。
 鼻の穴の奥の方にできる悪性の腫瘍で、進行すると顔面の変形や脳への浸潤が起こってくる、とても怖い腫瘍です。
 

 無治療3~6ヶ月、放射線治療をしても1年ぐらい・・・。
「うちの子がどうして?何か悪い事したの」。
身内の者が病気になると、誰もが思う事なのでしょう。1週間ぐらいは現実を受け止められませんでした。ただただ、眠っているメルモを見ては、歩いているメルモを見ては、外出していてもメルモのことを考えては、涙なみだの毎日・・・。
でも、泣いていても癌は進行するばかりです。治療しなくては! 
 

 癌には色々な種類がありますが、メルモの罹っている鼻腔腺癌は放射線療法以外効果的な治療法はありません。やるしかない!!
 しかし、放射線は人の場合と同様、正常な組織にも影響するため、副作用も起こります。それ以上に動物さんは人と違ってじっとしている事が出来ないため、放射線を当てる場合には全身麻酔が基本です。それも、週に3~5回(総回数は癌種によりけり)と当てる必要があるため(根治的治療の場合)、相当体に負担が掛かります。最悪の事が起こり得る可能性だってゼロではありません。
 話は反れましたが、メルモの放射線治療(計44Gry、総回数11回)は無事終わりました。1~3日置きに三重の南動物病院まで通い、麻酔をかけ、放射線を当てと、1kgちょっとと小さな体で頑張ってくれました。
 心配されていた副作用も、こんなに出ない子は珍しいとおっしゃっていただいたくらい出ませんでしたし、麻酔後の回復も信じられないくらい早く、家に着くや否や、ご飯、ご飯と・・・。
 このように今回の放射線治療は無事すみましたが、メルモの癌は治ることはありません。いつか再発します。それが3ヶ月先なのか、3年先かはわかりませんが、メルモが生きてくれている間、後悔のない生活を送って行きたいと思っています。とは言っても仕事をしているため、四六時中一緒にいる事は不可能ですが、一緒に過ごせる時間を大切に過ごしたいです。
私たちのこの忙しい日常、誰が動物さんの鼻の皺一つ一つをじっと見たり、髭を一本一本観察したりなどする時間があるでしょうか?
 

 でも病気というものは不思議なもので、健康な日常生活では考えられないような、ゆっくりと流れる穏やかで、幸せで、温かい、充実した時間も作り出してくれるものなのです。
 いつかメルモがいなくなってしまった時、皺から髭からすべてを思い出せるように・・・。
 

 ご自分のペットが癌になってしまったら・・・?。 まず、泣けるだけ泣いて、涙は涸れないことを悟り、次に相手(癌)を知りましょう。 倒せる相手なのか?倒せない相手なのか? そして、その動物さんにはどのような方法がベストなのか? ご家庭の事情、動物さんの状態、年齢など、一筋縄には行きませんが、 一緒に考えていきましょう。
 最後に。
 

 今回メルモの癌の診断、検査、治療などにおいて、獣医師を忘れてパニックを起こしている私に ご助言、ご協力してくださった先生方、手紙、メール、電話などで励まして応援してくれた友達、 2時間もかかる三重の動物病院まで、メルモを何度も連れて行ってくれた家族、本当にありがとう ございました。皆様の期待に答えるようメルモはまだ頑張ってくれるはずです。
 本当に、本当に、ありがとうございました。
 「私、10歳までは頑張るよ!まだまだお姉ちゃんと過ごしたいから・・・。  By メルモ」
                                                                                       

 Dr理恵のお話 No.11 2008.8月
 

P.S 先日うちのメルモが9歳のお誕生日を迎えることが出来ました。鼻腔腺癌の放射線治療から丸1年。                メルモは頑張ってくれています。信じられないぐらい元気で、                                           毎日生きてくれています。気にかけてくださる皆様、ありがとうございます。メルモはまだまだ頑張ります(*^^)v。
                                                                                    

 Dr理恵のお話 No.18 2009.9月 
 

 今年もおかげさまで、うちのメルモがお誕生日を迎えることができました。気にしていただいている方々、                        本当にありがとうございます。
 メルモはまだまだ頑張ります。『まだおいしい物をいっぱい食べたいからね(^^♪』

 

 Dr理恵のお話 No.26 2011.1月
 

P.S 昨年末、少し体調を壊していたうちのメルモ(No.3「うちの子が癌になりました」参照)も、おかげさまで無事年を越すことが出来ました。毎日の点滴、投薬にも頑張って耐え、鼻血は随時出ていますし、鼻で呼吸もできませんが、本人はけろっと楽しそうに生きてくれています。毎月放射線を当てて下さっている大学の先生、いつもメルモの状態を気にかけて下さっている方々、本当にありがとうございます。メルモはまだ頑張れそうです。今年もメルモの元気な顔を見てやって下さいね(*^_^*)。

 

 Dr理恵のお話No.29  2011年10月 『奇跡の子、メルモ』
 

 ウィキペディアによると、奇跡とは「人間の力や自然現象を超えたできごと」とあります。まさしく私の大切なメルモは何度もその奇跡を起こしてくれています。
 メルモは2007年から鼻腔腺癌という癌と戦っています。対戦方法は放射線治療と民間療法(サプリメント中心)です。メルモの癌の進行状況からみると、癌細胞をすべてやっつけることはできないため、3カ月~2年ぐらい癌の進行を抑える事を目標に放射線治療を開始しました。放射線治療は(ご存知の方もいらっしゃると思いますが)限度なく照射できるものではありません。そもそも放射線とは癌細胞をやっつける治療ですが、その周辺の正常な細胞にもダメージが生じます。臓器ごとにある決められた量以上の放射線を当てると、正常組織も弱り放射線による害が出ます。また、正常細胞が受けた放射線の影響は何年経っても多少残りますので、同じ場所に再度放射線を照射することが出来ないことが多いのです。メルモの照射部位は鼻です。小さなメルモは鼻の長さが1cmぐらいしかありません。そしてその上には脳があり、眼があり、下には口があり、舌がありと、生きていくのに大切な正常組織がわんさかあります。当初の説明では、おそらく治療中に口腔内がただれ食事が取れなくなり、また、眼は見えなくなるのではないかという説明でしたが、最大照射量と言われている44Gry照射中は全く副作用が出ず、麻酔の影響も出ませんでした。
 

 以後3カ月毎にCT検査を行って、癌の進行状況を観察していました。
 そして1年と少し経った頃から、少しずつ癌細胞が活動し始めました。南動物病院の先生になんとか手はないのか相談しましたが、手は無いの一点張り・・・。そんな時、お友達から麻布大学の腫瘍科を紹介していただき、そこで放射線治療の圓尾先生に出会いました。圓尾先生は、私が獣医師であり、麻酔、放射線の副作用等に関しての理解があることなどの理由から、放射線量越えての照射をしてみましょうということになりました。以後、メルモの鼻つまりの症状から約1~3カ月毎の照射をしています。計算上メルモの放射線総量は120Gryになっており、麻布大学では「奇跡の子」と言われているそうです。(奇跡の症例として、雑誌で紹介される予定です。)
 

 さらにメルモの奇跡は続きます。
 

 実は7月中旬、アクシデントでメルモが心肺停止に陥りました。(ベットからの落下)すぐに1階の病院で蘇生処置を始めました。3分、4分・・・。時間だけが過ぎ、メルモは一向に戻ってきてくれない!!。メルモ、メルモ。私は叫び続けましたが戻ってきてくれない。
6、7分ぐらいたった頃でしょうか。瞳孔も開き、もうメルモをこの世に戻すことは無理だと2階の自宅にメルモを連れていき、主人に電話をしようとしていた時、「キュー」とメルモののどの音が・・・。えっ!。すぐ1階にメルモを連れていき、再度蘇生処置をすると、なんと、なんと、ずっと止まっていたメルモの呼吸が戻ってきたのです。その後、意識も戻り、冷たくなっていた体も温かくなり、外来始まる頃までには私を目で追うまでに回復してくれました。・・・奇跡・・・。12歳という年齢から、長期間の酸欠の後遺症は重いものであろうと覚悟はしていたのですが、2週間ぐらいでふらつきながらも立てるようになりました。ただ、落下の際舌を噛み切ってしまったようで、あのメルモの可愛い舌が半分以上無くなってしまいました。そのため、かたいフードやお水を飲んだりができなくなってしまったのですが、それも自分で克服し、お誕生日(8/2)までにはケーキも食べれるようになり、さらにお口の中にフードを入れてあげれば一生懸命にカリカリと食べたり、顔を半分以上つけてお水も飲めるようになりました(*^^)v。
 ただ、そんなかんなしている間に鼻が詰まりはじめ、恒例の放射線照射が必要な時期になってきました。いままでの体の状態とは違うメルモに麻酔&放射線照射というリスクは大丈夫であろうか?。不安と闘いながらも癌の増殖も怖いため、8月24日に放射線治療を受ける事に決めました。
 

 その選択が良かったのか、悪かったのか(>_<)・・・。
 当日の放射線が非常に込み合っていた(水曜日が放射線照射日なのですが、前週がお盆休みだったため)ので少し粗雑に扱われてしまったことや、毎回メルモに麻酔をかけて下さる方がいらっしゃらなかったことなど、悪い条件が重なってしまったためか偶然か。麻酔からは無事覚醒したのですが麻酔後のメルモの状態は非常に悪く、さらに毎回持参している緊急治療セットを持参するのを忘れてしまっていたため、獣医師であるにもかかわらず、私はメルモに何もしてあげる事が出来ないまま、可哀想にメルモは大学からの帰路5~6時間、ずっ~~~と咳込み、最悪の呼吸状態のまま頑張ってくれました。
 

 帰宅し、酸素吸入などの治療後少し容体は落ち着いたものの、次の日の午後まで咳は続き、小さな体に多大なストレスがかかっていました。
 また、家の修繕工事なども重なり、メルモには耐え難いストレスだったのか、放射線の脳への影響なのか。(放射線総量を考えると、脳への影響が今まで出ていない方がおかしい)メルモの脳に異常を来してしまったのです。手、足、首は硬直状態、40度以上の発熱、異常な興奮状態・・・。いつもはおとなしいメルモが「ギャー、ギャー、ギャー、ギャー」と泣き続けます。昼も、夜もかまわず、無意識に眼をひんむいてひたすら泣き続ける・・・。抗てんかん薬を使おうが、何を使おうが、一向に治まらない・・・。本当はこんな時、麻酔をかけて眠らせるのですが、放射線治療の際に血管確保にミスがあったため、取れる血管がない・・・。私は獣医師なのに、どうしてもあげる事も出来ない・・・。
 

 ずっ~と、ずっ~とメルモを抱き「頑張って、頑張って」からしだいに「苦しかったら楽になってもいいんだよ」と・・・。
 そんな興奮状態が2日続きメルモとの徹夜が2日目になったころから、硬直は変わらないものの、少しだけ眠ることが出来るようになってきました。眠ってるときのメルモは穏やかで、次に目が覚めたら普通に戻ってくれているのではないかと期待をするのですが、起きると興奮状態・・・。私の寝不足もピークにさしかかってきた4日目頃から、寝る時間が増えいつしか昏迷状態(昏迷とは、繰り返し強く呼びかけると一瞬だけ反応がある意識障害で、一方昏睡はどんなに強い呼びかけを繰り返しても反応できない意識障害)に。興奮が始まった当初は、意思の疎通(感情表現の豊富なメルモの笑った顔や喜んだ表情を見る事が出来ない事)が出来ない事が悲しくてつらかったのですが、この頃になると、ぬいぐるみさんのように横たわっているだけでも、メルモが苦しくなければ肉体だけでもあってくれればいい、という感情に変わってきていました。
 そして奇跡が。
 

 あれから1ヵ月。今、メルモは目が合えば笑うし(^O^)、ふら付きながらも自力で立ったり歩くことだって出来ます。食欲も旺盛です(*^。^*)。
 高齢だし、癌持ちさんなので、メルモの人生は確かに最終章には入ってきていると思います。でも、そんな中メルモが毎日楽しく暮らしてくれて、もうこの世で思い残すことはない!と思った時、私の元から旅立っていくでしょう。
 人生にはどう考えても神の力が加わったとしか思えない出来事など、何度か奇跡があります。メルモの事に関しては、私を助けてくれているのか、メルモを助けてくれているのかわかりませんが、すべての出来事、周りの人々に感謝しつつ日々生きていきたいと思っています。
 

 メルモの事を気にかけて下さっている皆さん、本当にありがとうございます(^_-)。
 「みんなありがとう(*^_^*)。わたしこっちでもう少しおいしい物食べようと思ってま~す(#^.^#)。 byメルモ」

2012年1月18日(水)PM8:15
 大切な大切なメルモが私の元から旅立ちました。
 まだ現実を受け止められないでいますが、落ち着いたらメルモの思い出話を聞いてください。今までメルモの病状を気にかけてく ださった皆さん、本当にありがとうございました。

2012年2月6日(麻布大学圓尾先生からのお悔やみメール
 梅村様
 お葉書、さきほど拝見させていただきました。
 梅村様の強い意志により、治療不可能と思われていた再照射が始まり、それが功を奏して、長生きできたのだと思います。
 梅村様、メルモちゃんのおかげで、再照射の効果を再認識し、他の動物たちにも実施するようになり、恩恵がありました。亡くなったことは悲しいですが、いろいろ教えていただきました。
 また、他の放射線治療施設の方にも、再照射の意義を伝えることができます。
 メルモちゃんの命は一つですが、メルモちゃんのおかげで少しでも放射線治療の恩恵を被ることができる動物が
たくさんいます。これからもです。
 しばらくは、いつも思い出され、つらいかもしれませんが・・・。
 学会で発表したスライドを添付いたします。(論文にするには、査読者の方に再照射を理解してもらわないと
いけませんので、いつになるかは分かりませんが・・・。)
 スライド上、実際とはあわないこともあるかもしれませんが、お許しください。
 圓尾拓也 拝

2012年5月♡メルモのお礼♡
 「生前病態を気にかけて下さった方々、亡くなった際お悔やみを下さった方々、その節は本当にありがとうございました。体の小さなメルモが虹の橋への階段をたった一人で登って行くために、最後の最後に私がメルモにしてあげれる事はお坊さんにお経をあげて頂く事だけなので、初七日、二七日、三七日、四七日、五七日、六七日、四十九日の供養を行い、先日(4月26日)ようやく百ヶ日のお経を終えました。あとは毎月、月命日(18日)の供養だけになってしまいますが、メルモも永い旅を終え、あちらで落ち着いた生活を始めていることと思います。メルモのいない毎日は酸素が無くなってしまったぐらい辛く苦しいですが、メルモは痛みも苦しみもない世界で楽しく暮らしてくれているはずなので、メルモと再び逢えるその日まで、メルモに恥じる事のない生き方をしていこうと思います。  気にかけて下さった皆さん、今まで本当にありがとうございました。

 

No.2012.7月
 PS.メルモが水晶になって帰ってきました。
右が癌になる前(2004年)のメルモ、
左が闘病中(2011年)のメルモです。どちらも可愛いです。

No.33 2013.1月

 11月からご迷惑をおかけしていた病院外観の改修工事がようやく終わりました。玄関正面に、帰ってきましたよ~メルモちゃん(#^.^#)。1年ぶりに(1月18日が命日)硝子アートになって帰ってきました。虹の(http://www5.ocn.ne.jp/~select/Rainbow.html)を無事わたり、幸せそうなメルモがこれからずっと私やスタッフ、来院される動物さんと飼主さんを幸せに導いてくれると思います。来院された際にはぜひ正面のメルモちゃん、2階の茶々(ササ)ちゃん、猫さん、鳥さん、ハムスターさん、うさぎさんを見て下さい。特に、ライトアップ後が自慢です(#^.^#)。(ステンド硝子アート 岩田知子さま作 http://stg-art.com/)
            

 

マリア動物病院